天児屋たたら公園

新緑の公園

奈良時代に編纂された播磨国風土記の中に「鉄を産する」と記されている千種町は、古代より砂鉄を利用した「たたら製鉄」が行われていました。

天児屋鉄山跡は、設備ごとに整然とした石垣群で区画された四方約400m、町内最大規模の遺跡であり、周辺の広大な山林を利用してたくさんの鉄を産出しました。

紅葉と山の神祠

天児屋鉄山跡(兵庫県指定史跡)

昭和59年から実施された調査によって、炉の地下構造が明らかになり、地下4メートル近く掘り込んで、入念に排水、防湿工事が施されていたなどの跡が確認されました。この先人の足跡を残し、後世に伝えるべく、公園として整備が行われ、平成9年4月「天児屋たたら公園」がオープンしました。

たたらの里学習館

園内には、“たたら” の歴史や工程について学べる「たたらの里学習館」が建てられています。また兵庫県西播磨県民局発行の冊子「たらのふるさと西播磨」の中では、天児屋鉄山の「たたら製鉄」が詳しく紹介されています。
たたらの里学習館
たたらのふるさと西播磨

群生するクリンソウ

クリンソウ群生

遺跡保護の為に行われた環境整備でしたが、自生するクリンソウによい環境を与えたかのように、数を増やしていってくれたという、うれしい結果を見る事となりました。
開花期間:5月上旬~5月下旬

カメラを構える人々

2012年6月には写真コンテスト が行われるなど、多くの人で賑わいを見せた「天児屋たたら公園」、2014年には15haにも及ぶ、全国でも有数規模の群落を一般公開した「ちくさ湿原」、絶滅危惧種のクリンソウが、なぜ、これらの地で生息域を伸ばす事ができたのか、元兵庫県昆虫館館長、西播磨の植物生態の第一人者 内海功一氏の話を元に紹介して行きたい。

自生するクリンソウ

“たたら”とクリンソウ

昭和の時代、西河内地区の人々にとって、クリンソウは珍しい花ではなかった。 野に咲くタンポポやコスモスのように、ごく身近な花であった。クリンソウは、「暑さに弱く」「寒さに強い」という特性を持つ。夏でも涼しい西河内はクリンソウにとって最良の生息地であったようだ

近年、村内で目にする事が少なくなったクリンソウだが、今また、この奥山の地で栄えようとしているのは、木陰で昼寝をしようものなら風邪をひく「夏場の涼しさ」も一つの要因であろう。

鉄穴流し場図

「土と水」最良の土壌

千種の山の土からは、良質の「真砂砂鉄」が取れる。
この真砂砂鉄は、たたら製鉄に最も適しており、良質の砂鉄から生み出された「千草鉄」は高い品質を誇り、刀匠たちに珍重されたのである。そして、砂鉄を取った後の「真砂土」はクリンソウが育つ土として最適となった。

砂鉄を採取する際、「鉄穴(カンナ)流し」という手法がある。カンナ流しとは、人工の水路と溜池(カンナ池)を作り、そこに砂鉄を含んだ土砂を流す。軽い土砂は下流に排出され、砂鉄を含んだ重い土砂は池の底に残る。これを繰り返すことで砂鉄の純度を高め、良質の砂鉄採取へとつなげた。

今回の群生地は、そのカンナ池跡、水路を繁殖地とし、鉄の遺構を追うように形成されている。

自生するクリンソウ

湿地を好む(乾燥や水切れには非常に弱い)クリンソウにとって、適度の湧き水と保水力のあるカンナ池からの恵みを受けた「ちくさ湿原」は最良の生息地となった。加えて、湿地であるが故に、スギ、ヒノキなどの植林には適さず、広葉樹の下で適度な日照が得られたと言える。たたら公園に於いては、遺跡保護の為に行われた環境整備も、「適度な日照」につながったと言えるであろう。

公園内のクリンソウ

クリンソウにとって最適な環境が「天児屋たたら公園」「ちくさ湿原」に有ったと言えるのだが、これほどの群落を形成するまでになったには、近年、その数を増やし各地で影響を及ぼしている、ある動物の存在が大きく関わっているようだ。

ちくさ湿原大黒天に咲くクリンソウ

鹿の不嗜好(ふしこう)植物

鹿はクリンソウを食べない。

クリンソウを残し、周囲の草を食べる“除草”してくれるのだ。
そして、動物は水辺に集まり、エサを求め、移動を繰り返す。獣の足に付着した種は、獣の移動と共に、他の地で芽を吹く。
この自然界の営みが、近年になって生息域を広げたものと推測される。

クリンソウ生育に適した千種の気候、そこには “たたらの遺跡” という最良の土壌があり、自然界の営みと相まって、大群生地を築きあげた。千種ならではのこの場所を、我々は守り、育てて行きたい。

たたらの里学習館
たたら製鉄の歴史を模型や図表解説ビデオ等で紹介展示しています
クリンソウ(ちくさ湿原)
国内最大級、群生地全域 15ha、遊歩道総延長 2.5kmを一般公開
アクセス(群生地へ)
クリンソウ群生地へを目的とした、お車・公共交通機関をご案内
フォトコンテスト 2015
2012年に続き、第2回クリンソウフォトコンテスト入賞作品集
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